アニメの下請けいじめ是正、でもアニメーターも意識改革しないと。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0903/23/news025.html
アニメ業界の悪しき商習慣是正のため、経産省ガイドライン策定に踏み込んだ。アニメ業界を応援する私としてはとても明るいニュースだ。
ただ、このガイドラインだけでは何も効果がなく、アニメ業界内の意識変革がなされなければ、何も是正されないまままたずるずると同じような状況に戻るだろう。

アニメーターは「謙虚」と「卑屈」を履き違えている人がやたらと多い。誰が見てもとんでもなく技術の優れたアニメーターが「いえ、まだまだ俺下手糞ですから」なんて言って技術に見合わない安い賃金で満足している。そんな優れた職人が安い賃金でやっているものだから、後輩はそれ以下の賃金で働かざるを得ない。「貧乏しながらいいもの作る」ということを「美」と感じている人が多すぎる。その昔宮崎駿高畑勲らがやっていた組合運動が、「アニメ業界の黒歴史」のごとく語られることが多いのは「貧乏しながらいいもの作ることを美とする信仰」が今でも業界にはびこっている証拠のように思える。
そして元請けプロダクションはそこに漬け込み安い人件費でアニメを作る。それをプロダクションの社長が「うちはこんなに安く出来ます」なんてことをスポンサーや代理店、テレビ局に言っちゃうから結局安い制作費しか払われない。そんな悪循環の集積が今の状況なのではないかと私は感じている。

アニメ業界の労働賃金の安さの諸悪の根源として手塚治虫の名前を上げる人はたくさんいる。私も最初そう思っていたが、間違いだと思う。
手塚治虫はディズニーのようなアニメを作りたかった。しかしディズニーのようなハイクオリティのアニメを作れるほどアニメというものにお金を出してくれるスポンサーなど当時の日本にはなかった。だから作画枚数を極端に減らし、物語で見せる手法でアニメを作った。
すなわち、手塚治虫は「予算の範囲内でアニメを作る」天才でもあった。実際、そのころのアニメーターは動画1枚でラーメン1杯は食えたのだという。今は動画5枚ほど描かなくてはラーメンなど食えない。
手塚以降のアニメ業界人は、クオリティをあげていくことを追求し多くの人手が必要なものを作りながらも、賃金をあげる努力をまったくしなかったり、スポンサーから上昇するクオリティに見合うだけの制作費を勝ち取る努力をしてこなかった。だからそんな業界人が自分に非難の目が向けられないよう手塚治虫を悪者にしているのではないかと、私などは勘ぐってしまう。
「制作費が安いんだからクオリティ下げろ」というつもりはないが、クオリティが高いことが大前提となるアニオタ向けのアニメばかりを作るのはそろそろやめたほうがいいということは以前のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/rebamaki/20090126)でも述べた。

アニメ業界は今の今まで「学校の先生がいじめっ子を叱ってくれるのをただただ待っているいじめられっ子」だった。自らいじめっ子に立ち向かうということはしてこなかった。このいじめられっ子根性が抜けなければ、やはりまだまだ未来は暗いと思う。受身ではない業界内の意識改革も絶対に必要だ。